歴史 気になる事柄を学ぶシリーズ 神話・伝説

108 伝説のチームを紹介する試み 蚩尤と四凶(しきょう)編⑤ 渾沌(こんとん)

伝説のチームを紹介する試み。
蚩尤と四凶(しきょう)編 最終回。

古代中国の神話に登場するどうしようもない悪神たち「四凶」
今回は、四凶最後の一人、4人のなかで一番よくわからないヤツ、渾沌(こんとん、拼音: húndùn)です。



四凶(しきょう、Sìxiōng)とは、
古代中国、三皇五帝(世界のはじまりの後に現れた伝説の帝王たち)の一人、舜帝によって追放された四柱の悪い神たち。

孔子の編纂と伝えられている歴史書「春秋」の代表的な注釈書の1つ「春秋左氏伝」(しゅんじゅうさしでん)に記されており、
饕餮(とうてつ)、檮杌(とうごつ)、窮奇(きゅうき)、渾沌(こんとん)は悪逆非道の限りを尽くし、「四凶」と呼ばれたそうです。


渾沌は中国神話に登場する怪物の一つ。
渾敦とも書きます。
四凶のことが記された上記の「春秋左氏伝」においては、
渾沌は帝鴻氏の子であり、四凶の一つとされています。

他の四凶メンバーと同じく、三皇五帝の一人、聖人舜帝により西の果てに追放。
追放後は外からくる魑魅魍魎をせき止める防波堤になっています。

渾沌

渾沌のあらましとビジュアル。


上記、渾沌は「帝鴻氏の子」とのことですが、
帝鴻氏とは、蚩尤回で紹介した、三皇五帝のうち五帝の最初の一人である黄帝のこと。
つまり、渾沌は黄帝の息子ということで超VIPな家柄になります。

帝鴻氏の渾敦・少昊氏の窮奇・縉雲氏の饕餮は三つの氏の苗裔(子孫)たちなので三苗とし、
また、三苗とは、蚩尤が率いた九黎族の生き残りともいいますので、つながります。

伝わっているビジュアルとしては四凶の中でもかなり個性的。
書物によりディテールは異なっていますが、
「山海経」では、

「体が黄色い袋の様でのっぺらぼう、脚が六本と四枚の翼が生えた姿」。

これは天山の神、帝江(ていこう)という生き物の説明ですが、渾沌と帝江は同じものでこれが渾沌の本来の姿だそうです。
そして、帝江=帝鴻と考えられるため、渾沌って黄帝なんじゃね?と考えられています。

また、毎度おなじみ東方朔の「神異経」によれば、

犬のような姿で長い毛が生えており、爪の無い脚は熊に似ている。
目があるが見えず、耳もあるが聞こえない。
脚はあるのだが、いつも自分の尻尾を咥えてグルグル回っており、空を見ては笑っていた。
善人を忌み嫌い、悪人に媚びる。


だそうです。
説明がちょっとポケモン図鑑みがあります。

渾沌

荘子における渾沌。


諸子百家に数えられる道家の思想家にして道教の始祖の一人ともされる荘子こと荘周が著した「荘子(そうじ)」にも渾沌は登場。
なお、人名としては「そうし」ですが、著書の方は「そうじ」と濁って読むのが一般的です。

ちなみに書物の「荘子」とは、中国の戦国時代中期に成立した道家の代表的な思想書のひとつで、寓話や例え話を通して「道」という大きな存在を説いているのが特徴。
根本的な思想としては、すべとの根本は有でも無でもなく、万物には是非・善悪・美醜・生死といった区別・対立はない「万物斉同」という考え。
一切をあるがままに受け容れ世俗の価値観にとらわれない生き方をすることで、真の自由が成立すると説いております。
この思想はのちに「禅」の成立にも大きな影響を与えました。

荘子

そんな「荘子」の 内篇應帝王篇、第七 のエピソードに、
渾沌は「中央の帝」で目、鼻、耳、口の7つの穴が無いのっぺらぼうとして登場します。

ある時、南海の帝である儵(しゅく)と、北海の帝である忽(こつ)は、
自分たちを手厚くもてなしてくれた渾沌にお礼をしようと、渾沌の顔に七孔をあけてあげたところ、なんと渾沌は死んでしまいました。

という身も蓋もないお話です。

つまりどういうことだってばよ。といいますと、
「いらんことをするな」という教えです。
このお話が転じて、物事に対して無理に道理をつけることを「渾沌に目口(目鼻)を空ける」と言うそうです。

なお、南海と北海の帝である儵と忽、
「儵」は「たちまち」「はかないこと」、「忽」は「にわか」「つかの間」という意味でどちらも非常に速いことを意味しており、
合わせて「儵忽(しゅっこつ)」というと「時間がきわめて短いさま」「たちまち」という意味だそうです。


渾沌

最強の仙人説。


また一説には明代の神怪小説「封神演義」に登場する、
鴻鈞道人(こうきんどうじん)は、渾沌氏を神格化したものであるといわれています。

封神演義といえば、
「西遊記」、「三国志演義」、「水滸伝」、「金瓶梅」の中国四大奇書と合わせて語られがちな小説。
史実の殷周易姓革命を舞台に仙人や道士、妖怪が、人界と仙界を二分した大戦争を繰り広げるスケールが大きな作品で、マンガ・アニメ化されたりもしていますね。

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封神演義における仙界には人間出身の仙人・道士達からなる崑崙山の仙道「闡教(せんきょう)」と、それ以外の動物・植物・森羅万象に由来する仙道「截教(せっきょう)」の二大派閥があり、
闡教の長が元始天尊(げんしてんそん)、截教のボスが通天教主(つうてんきょうしゅ)
鴻鈞道人はそんな二大巨頭である元始天尊と通天教主、そして彼らの兄弟子である太上老君(たいじょうろうくん)の師匠なので全ての道教の師と呼ばれています。

作中のラスト「万仙陣の戦い」で通天教主サイドがしいた万仙陣が破られ闡教の勝利となりますが、「おのれ許すまじ」と激おこの通天教主は復讐の策を練ります。

そんなところに、弟子たちの復讐の連鎖を止めるため、鴻鈞道人登場。
彼は通天教主、元始天尊と闡教サイドについていた太上老君を叱り、今回だけは通天教主のことを許して収めなさいと命じます。
さらに鴻鈞道人は、「もし再度、三人が争うことがあれば全員死ぬ」というお薬を三人の弟子に飲ませるのでした。

三人の最上位級の仙人をビビらせお仕置きもできる存在。
インフレがやばすぎて頑張ってきた他の人、ポカーン案件です。



そんなわけで四凶最後の一人、渾沌でした。
黄帝の息子や本人とされたり、チート級の仙人だったりと破格のポテンシャルを持ちながら、
普段は、尻尾を追いかけてぐるぐる回って空を見て笑っているというギャップがとても不思議な渾沌でした。
色々な記述があるものの、混沌としてまとまらず謎すぎるところも渾沌らしいところだなと思います。

ところでこのコ、あんまり悪いことしてなくない?



次回は違ったテーマで新しいシリーズを計画中です。
今後とも宜しくお願いします。



なお、このブログは、気になったことを調べ、学んだ内容とイラストを紹介するお絵描きブログです。
ソースは主にWikipediaなどになりますので、学術研究ではなくエンターテイメントとしてお楽しみください。
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