兵家 諸子百家

018諸子百家9 書物としての「孫子」と二人の孫子


諸子百家についての勉強。
今回からあらためて「孫子」を深堀りしていきます。



・「孫子」の意味するもの
まずはそもそもの 「孫子」 ですが、
兵法書として書物の孫子とその作者である人物名の孫子があります。
孔子や老子と同じく「子」は先生という意味なので、
人名の孫子は孫先生という敬称を込めた呼び名になり、
二人の人物を指しています。

一人は、以前の記事 で紹介した孫武(そんぶ) という人物。
もう一人は孫武の子孫と言われている孫臏(そんぴん)という人物です。
いずれも古代中国に生まれ活躍しましたが、
孫武は春秋時代の紀元前500年代、
孫臏はその後の時代になる戦国時代の紀元前300年代に活躍しています。

孫臏 生没年不詳



書物としての「孫子」は孫武が残したもので中国の代表的な古典の一つ。
日本でも「孫子の兵法」と呼ばれ、
戦国武将や武士から現代のビジネスパーソンもでマストで押さえときなさい。
というくらいの知名度。
関連の書籍もたくさん出ていますね。

ただ、孫臏の実在は他の資料からも確認をがとれていたものの
著作となる兵法書が見つからなかったので、

「兵法書の孫子は後世に作られたものだ。」
「孫臏が作者で孫武は実在しなかったので二人の孫子がいたのは誤り。」
「孫武もいたけど、作者は孫臏だ。」

といった論争が長い間続いていたそうです。
しかしながら、1970年代、二千年前、前漢時代のお墓の発掘調査で、
たくさんの副葬品の中に孫武著の「孫子」と孫臏著の「孫臏兵法」の竹簡が発見され、
長い論争に終止符が打たれ、二人の孫子の実在も証明されたそうです。

・孫武の「孫子」
春秋、戦国時代や三国志の時代、
その後のたくさんの動乱の時代にも読まれ続けてきた「孫子」、
十三篇からなるこの書物は、兵法書ではあるものの当時の戦闘技術を教えるというものではなく、
書の中で説かれているのは戦いについての真理であり、
戦争にとどまらない理論や哲学を伝える内容が書かれています。

孫武が著した教えは存命中の春秋時代から評価されていましたが、
彼の死後にはますます評価が高くなり、戦国時代後期には
政治家や武将、知識人には必読の書として尊ばれます。

後の時代にも愛読され続け、
三国志の曹操は深く研究し注釈を付け加えた「魏武註孫子」を残し、
現在でも書籍化されている孫子関連本のオリジナルとなっているそうです。

また、宋の時代には兵学において学ぶべき書物として、
武経七書が定められ、孫子はその中でも最も重要視されました。

日本には奈良時代に百済人によってもたらされました。
また、留学生として唐に渡った 吉備真備 は
儒学や兵学など当時の最新鋭の学問を学び、孫子の兵法を導入した作戦で乱を早期平定。

源頼朝の父である源義家も孫子を学んでおり、
孫子の中の記述と同様に、水鳥が不自然に飛び立つのを見て
伏兵に気づいて事なきを得たというエピソードがあります。

武田信玄の軍旗に書かれた「風林火山」も「孫子」由来であり、
信玄は「孫子」を愛読し強い影響を受けていたことはよく知られています。

戦国時代が終わった徳川幕府の時代には、
兵学にとどまらず教養として「孫子」は日本に浸透し、
武士や知識人にも広く読まれその研究も盛んに行われました。

日本だけではなく、ナポレオンが座右の書としていたという逸話もあったり、
現代においてもアメリカ軍幹部教育の教材に採用されていたり、
ビジネス書として、また思想書や哲学書としても愛読している人は多いです。
2500年前から現在も読まれているということでもうすごいんですが、
戦いだけでなく人生のあらゆることにおいて、いかに本質をとらえているかということかと思います。

・「孫臏兵法」
孫臏の兵法は、孫武の兵法を継承した内容であり、
戦争は軽々しく行うものではないという立ち位置は共通し、
避けられない場合も好戦的な姿勢は否定しています。

しかしながら、孫臏が生きた戦国時代は
政治経済、文化が発展し、孫武の活躍した春秋時代に比べて、
軍事の面でも各国が群雄割拠し天下の覇権を争う時代となりました。

戦争の規模が大きくなって戦場も多様化、兵器も発達。
その変化により、孫臏兵法では内容がより具体的になっています。
また、攻撃を重視する傾向があり、
戦いになったら防御に回らず攻めに徹するというポジション取りをすることや、
孫武が下策であり避けるべきとした「城攻め」を重視。
敵の城=都市を落とすことが勝利となる戦国時代の戦争事情を反映した内容になっています。

今回はこんな感じで二人の孫子についてと、
兵法書の「孫子」と「孫臏兵法」についての簡単な紹介でした。
また別の回では孫武と孫臏の生涯やそれぞれの兵法の紹介、
兵法の中の名言なども紹介していきたいと思います。

※記事については、 学術研究ではなく、
エンターテインメントとしてご覧いただけましたら幸いです。

参考文献
・二人の兵法孫子 孫武と孫臏の謎 (学びやぶっく) 永井義男 著

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・孫臏兵法 中国・銀雀山漢墓竹簡整理小組編 村山孚 訳

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