兵家 孫子の兵法

36 孫子 十三篇 研究 4 -形編 勝って当然。準備してチャンスを待つのだ。-

兵法書『孫子』の研究第4回。
今回は第4篇の形篇 について書いていきます。
戦上手の戦い方とは?
また、戦いのみならず仕事や企画においても役立つ
準備のステップについても述べてられており、
今回もいいこと言っています。

孫武

まずは書き下し文、
次いで解説を加えた現代語訳を紹介します。


孫武

形篇 書き下し文

孫子曰わく、

昔の善く戦う者は先ず勝つ可からざるを為して、
以て敵の勝つ可きを待つ。

勝つ可からざるは己(おの)れに在るも、
勝つ可きは敵に在り。
故に善く戦う者は、能く勝つ可からざるを為すも、
敵をして必ず勝つ可からしむること能(あた)わず。
故に曰わく、
勝は知る可し、而して為す可からざる。と。

勝つ可からざる者は守るなり。
勝つ可き者は攻むるなり。
守るは則ち足らざればなり。
攻むるは則ち余り有ればなり。
善く守る者は九地の下に蔵(かく)れ、
善く攻むる者は九天の上に動く。
故に能く自ら保ちて勝を全うするなり。

勝を見ること衆人の知る所に過ぎざるは、
善の善なる者に非ざるなり。
戦い勝ちて天下善なりと曰うも、
善の善なる者に非ざるなり。


故に秋毫(しゅうごう)を挙ぐるは多力と為さず。
日月を見るは明目(めいもく)と為さず。
雷霆(らいてい)を聞くは聡耳(そうじ)と為さず。

古(いにしえ)の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。
故に善く戦う者の勝つや、智名も無く、勇功も無し。
故に其の戦い勝ちて忒(たが)わず。
忒わざる者は、其の措く所 必ず勝つ。
已(すで)に敗るる者に勝てばなり。
故に善く戦う者は不敗の地に立ち、
而(しか)して敵の敗を失わざるなり。


是の故に勝兵は必ず勝ちて、而る後に戦いを求め、
敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。

善く兵を用うる者は道を修めて法を保つ。
故に能く勝敗の政を為す。


兵法は、
一に曰わく度(たく)、
二に曰わく量、
三に曰わく数、
四に曰わく称、
五に曰わく勝。


地は度を生じ、
度は量を生じ、
量は数を生じ、
数は称を生じ、
称は勝を生ず。



故に、勝兵は鎰(いつ)を以て銖(しゅ)を称(はか)るが若く、
敗兵は銖を以て鎰を称るが若し。
勝者の民を戦わしむるや、
積水(せきすい)を千仭(せんじん)の谿(たに)に決するが若(ごと)きは、形(かたち)なり。

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孫武

形篇 現代語訳

昔の巧みに戦った者は、
まず敵軍が攻撃しても勝つことができない態勢を作り上げた上で、
敵を攻撃すれば勝てる時期を待ちました。

敵が自軍に勝てないのはこちらの態勢にありますが、
自軍が敵軍に勝てるかどうかは敵の態勢次第です。
だから巧みに戦う者でも、
敵軍が決して自軍に勝てない態勢をつくることはできても、
敵が態勢を崩して自軍が攻撃すれば勝てる態勢を取るように仕向けることはできません。
つまり、勝利を予測することはできても、
必ず実現することはできない。と言われるのです。

敵が自軍に勝てない態勢とは守備の態勢のことであり、
自軍が敵に勝てる態勢とは攻撃の態勢のことです。
守っているのは力が足りないからであり、
攻めるのは力に余裕があるからです。
守備が上手な者は、地の奥底深く潜伏し、
攻撃が上手な物は天空高く動き回るように行動します。
だからこそ、自軍を無傷で保全しながら、完全な勝利を得るのです。

勝利を見抜くのに一般の人でもわかるようなものがわかる程度では、最上とは言えません。
戦いに勝って天下の人々が立派だとほめられても最上とは言えないのです。

細い毛を持ち上げても力持ちとはいえず、
太陽や月が見えるても目が良いとはいえない。
激しい雷鳴が聞こえても耳が聡いとはいえないですよね。

昔の戦い上手と言われた人は、
勝ちやすい機会をとらえ、そこで打ち勝ったのです。
だから、巧みな人が勝った場合には、
知謀の名声もなければ、武勇の功績もありません。
勝ちに間違いが無い、勝って当たり前なので、
既に負けている敵に勝っている状態なのです。
それゆえ、戦上手は敵に負けないに態勢あって、
敵が負けるような機会を逃さないのです。

そんなわけで、勝てる軍は開戦前にまず勝利できる態勢を整えてから戦う。
敗ける軍はとりあえず戦争を始めてから、あとで勝利を求めるものなのです。

戦争の上手な人は、
勝敗を分ける道理を修め、軍紀を維持します。
だから思うがままに勝敗を決することができるわけです。

兵法で大事なのは、
1、度(物差しで測ること。=土地の測量)
2、量(升目で量ること。=穀物等の秤量)
3、数(数え測ること。=人の展開力)
4、称(比較して測ること。=こちらと敵の比較)
5、勝(勝敗を測ること。)
があります。

つまり、戦場となる土地について広さや距離を考え(度)、
その結果に基づいて投入すべき物量を考え(量)、
その結果に基づいて動員すべき兵数を数え(数)、
その結果に基づいて敵味方の能力をはかり考え(称)、
その結果に基づいて勝敗を考える(勝)のです。

そこで、勝利の軍は充分の勝算を持っているから、
鎰(いつ)※重いおもり で銖(しゅ)※軽いおもり をあげるようなものであり、
逆に負ける軍は銖で鎰をあげるようなものです。
勝者の戦いが、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に落とすように
人民を戦わせるのは、「形」によるものなのです。

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孫武

形篇 解説とまとめ

まとめると、
昔の戦上手は、敵が勝てない態勢を作り上げた上で、
攻撃すれば勝てるタイミングを待ったもの。

敵に勝てるタイミングは敵の体勢次第なのでコントロールすることは難しいが、
負けない態勢を作って相手のミスを待ち、チャンスを逃さないことが重要だと言っています。
地の深くに潜るように守って戦力を温存し、
縦横無尽に空を駆けるように攻めて完全な勝利を得るのです。

また、戦い上手と言われた人は、勝ちやすい機会をとらえて勝ったのであり、
戦上手が勝った場合は、名声はない。
世間の人に褒められているうちは二流だよと言っています。
すでに負けている相手に勝つので、勝って当たり前なのです。

お前はもう死んでいる。
「ブッ殺す」と心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっている。

というわけです。
名言ですね。
そこに痺れる、憧れるゥ!な感じです。

また、兵法で大事な5つのステップ、
度、量、数、称、勝 についても解説がありました。

戦場となる土地について広さや距離を考え(度)、
その結果に基づいて投入すべき物量を考え(量)、
その結果に基づいて動員すべき兵数を数え(数)、
その結果に基づいて敵味方の能力をはかり考え(称)、
その結果に基づいて勝敗を考える(勝)のです。

仕事や、イベントを企画する上でも重要な考え方だと思います。

登場した言葉、
「勝兵は必ず勝ちて、而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。」

勝てる軍は開戦前にまず勝利できる態勢を整えてから戦う。
敗ける軍はとりあえず戦争を始めてから、あとで勝利を求める。
というこの言葉は、この篇の白眉ですね。

準備がきちんとでき負けない態勢が整っていれば、
重いおもりで軽いおもりをあげるように簡単で、
深い谷底へ水を一気に落とすように勝てる。
「段取り八分、仕事二分」という言葉もある通りですね。
以上、今回は第四篇「形篇」についてでした。

『孫子』十三篇

参考文献
・孫子 ー「兵法の真髄」を読む(中公新書) 渡邉義浩 著

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