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90 気になる鬼シリーズ2 東北の鬼・悪路王と大武丸

ごきげんよう、ハゲと天パです。

気になったものについて書いていくシリーズ。
気になる鬼、第二回。
今回は東北地方の鬼ブラザーズ 、
悪路王(悪郎)と大武丸(高丸)について書いていきます。

悪路王と大武丸



悪路王と大武丸、
いずれも東国の人々「エミシ」を率いた人物がモデルと考えられ、
征夷大将軍 坂上田村麻呂によって討伐。
このエピソードがお話として語られ、
田村麻呂をモデルにしたヒーローと戦う鬼として描かれたわけです。

征夷大将軍 坂上田村麻呂


それぞれ見ていきましょう。


悪路王

悪路王(あくろおう)
文献によっては、悪来王、阿黒王ともいわれますが、
東国社会の伝承に登場する人物、鬼です。

悪路王

鎌倉時代以降、に作られた「鹿島神宮文書」「吾妻鏡」といった、
鹿島神宮や鎌倉幕府について書かれた東国の文献にその名前が登場。

東国の先住民族 蝦夷(えみし)の長で、
歴史上の人物、アテルイがモチーフとなって悪路王伝説が生まれたとされています。
アテルイは、平安時代に朝廷から派遣された征夷大将軍の坂上田村麻呂によって征伐されたわけですが、
田村麻呂をモデルにした架空のヒーロー坂上田村丸が活躍する、
「田村語り」というジャンルの物語や、
「御伽草子」にも「討伐される鬼」という役回りで描かれていきます。

代表的な物語は複数ありますが、
いくつか紹介すると

御伽草子の「田村の草子」より。



御伽草子の「田村の草子」では
歴史上の人物である藤原利仁をモデルとした藤原俊仁に討伐される鬼として登場。

大蛇の化身の子である藤原俊仁将軍、ある日妻の照日御前が陸奥高山の悪路王にさらわれ、
俊仁は鞍馬の毘沙門天から宝剣を賜って奪還に向かいます。
道中、田村郷というところで一夜のおイタしちゃった女性に、
神通の鏑矢をあげたりなんやかんやしながら、
毘沙門ソードで奥州で悪路王を退治して照日御前を助け出すという、マリオ的なストーリーです。

なお、俊仁は照日御前や悪路王に捕まっていた人々を連れて京都に帰りましたが、
一夜の情でアレした田村郷の女性は懐妊しており、のちに男の子誕生。
成長して上洛しますが、俊仁が女性に渡した鏑矢をもってたので親子と判明します。、
この男の子は改名して鬼退治ヒーローの坂上田村丸になりました。というお話。
田村丸ライジングです。

御伽草子の「立鳥帽子」より。


同じく御伽草子の「立烏帽子」では、
鈴鹿山の池中に住む女盗賊の立烏帽子の夫、悪黒王として登場。
立鳥帽子を討伐に来た田村丸でしたが、矢文の交換をするうちにいい感じになり、
もう好き好き大好き。
立鳥帽子は、夫婦仲があんまり良くなかった夫の悪黒王を倒したら結婚してもいいよ。
と矢文で持ちかけます。
今のLINE的な感じなんですね。矢文って。

悪黒王は陸奥国の「きりはた山」が住処でしたがたまたま来ていたようで、
朝、湖に現れた悪路王を田村丸は弓矢で射殺。
二人はめでたく結ばれました。
という、
盗賊と鬼と不倫間男という登場人物全員バイオレンス要素強めの不倫の話ですが、
今と価値観が違うのでそこはツッコミはなしです。

悪路王は8つの頭と多くの眼を持っていて超怖い姿だったそうですが、
東北から三重までわざわざ来たのに奥さんの謀略で殺されるとかマジかわいそう。



さて、悪路王=蝦夷の指導者・アテルイの説、
また、茨城県鹿嶋市の鹿島神宮には、悪路王面形彫刻と首桶が残っており、
「田村麻呂は下野達谷窟で討った悪路王(阿弖流為)の首級を当社に納めた。
ミイラ化した首は次第に傷みがひどくなったので、木製の首をつくった」と残っています
また、岩手県の平泉町にある中尊寺の大長寿院には、
悪路王所用と伝えられる長さ52センチメートルの毛抜形蕨手刀が所蔵されているそうです。


前回の藤原千方と四鬼の回で、
「悪郎と高丸」という藤原千方の子孫の鬼の兄弟が出てきましたが、
悪路王と同時代に諏訪大社の文献で登場した高丸という人物と融合し、
「悪事の高丸」というものすごく悪そうなキャラとして同一視されることもあります。




大武丸。


大武丸(おおたけまる)は、陸奥国の岩手山(岩鷲山、霧山)に住んでいたと伝わる
伝説上の蝦夷の首長、もしくは鬼です。

悪路王の弟とされる「高丸」、
または大武丸とか大高丸とか言われたりもしますが、
かっこいいので大武丸でいきます。

大武丸

上記の説では、藤原千方の子孫で悪路王の弟ということになっています。
ちなみに同じ読みの「大嶽丸」(おおたけまる)という鬼もいますが、
住んでいるところが違い、こちらは鈴鹿山の鬼神と伝わっているので別の鬼として扱います。
さっきも鈴鹿山でてきたので、
ルーツは実は一緒とも考えられますが、伝説系はこの辺がとてもややこしい。

福島県田村市の伝承では、「大多鬼丸」とされることが多いようですが、
大滝根山に立てこもって坂上田村麻呂に抵抗した鬼賊とされています。
同市常葉町常葉の小松神社では、
大滝根山の「大高丸」が偽りの降伏で田村麻呂を欺き、
隙を突いて火攻めを仕掛けたものの、
ワシが飛んできて雨を降らせたため敗北したという伝説もあるそう。

日本王代一覧という書物によると、
「桓武天皇20年(801年)、陸奥国の高丸という賊が達谷窟から兵を起こし、駿河国清見関まで攻め上った。
坂上田村麻呂が節刀を賜り、討伐に出たところ高丸は退いて陸奥に引きこもり、
追撃に向かった田村麻呂は神楽岡にて高丸を射殺、また悪路王という賊も退治した。」
とのことで朝廷に敵対する別のグループだったとみられていますが、
悪路王と同一視する見方もあり、

同じく田村市内の白鳥神社の縁起では、
同一視されて「悪路王大滝丸」となっており、
妖術で霧を呼んだり火の雨を降らせたりして田村麻呂を苦しめたと伝わっています。
また、常葉町堀田の日鷲神社では「霧島岳の高丸悪路王」が賊の名前となっていたりします。

ちなみに「オオタケマル」という名称、
「偉大で猛々しい男」、「険しい嶽に棲む男」と解釈でき、
山に属性を持つ鬼神信仰を背景に、宗教者たちの布教の過程で定着していったとも考えらているんだとか。


息子の名前がすごい。


また、大武丸の息子も伝説には登場し、その名も「人首丸」(ひとこうべまる)。
ネーミングセンスがやばい。
かつて人首村(ひとかべむら)と呼ばれていた岩手県奥州市江刺米里に伝わる伝説によると、
坂上田村麻呂の征討によって悪路王は磐井で、その弟の大武丸は栗原にて敗死したが、
大武丸の息子で悪路王の甥の人首丸は江刺まで落ち延び、大森山の岩屋を拠点としてなおも抵抗を続けます。
その人首丸もついに討たれてその地に葬られ、
以来その地は「人首村」と呼ばれるようになったそうです。
これが人首丸伝説ですが、村の名前がすごく不穏です。



悪路王も大武丸も東北地方を拠点とする鬼であることや、
田村麻呂に退治されることが共通しているため、
まあ、実際に兄弟だったかどうかはわかりませんが、
悪路王と大武丸の両者にはなんらかの関係があると思われます。

おそらく悪路王と同じく東北地方で力を持っていた人物をモデルに、
お話として伝わるにつれてヒーローに討伐される鬼として描かれることになったのでしょう。


また、上記の通り、悪路王と大武丸は同一視されることも多々あるので、
同一人物(たとえばアテルイ)が話が伝わるうちに分かれ、
別の鬼になったとも考えられそうです。


人類学者・民俗学者の伊能嘉矩によると、
各地の伝承に見える大嶽丸・大竹丸・大武丸・大猛丸の名はみな転訛であり、
大高丸→悪事の高丸→悪路王とも通じるので、
つまりは本来ひとつの対象を指していたと結論付けられています。

大和朝廷や坂上田村麻呂と戦った鬼のブラザーズの悪路王と大武丸。
どちらも強大な力を持つ、東北を代表する伝説の鬼でした。

悪路王と大武丸

次回も有名な鬼を紹介したいと思いますので、
よろしくお願いします。



なお、このブログは、気になったことを調べ、
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