兵家 孫子の兵法

45 孫子 十三篇 研究 13 -用間編 戦いの要は間諜(スパイ)にあり!-

2024年4月24日

兵法書『孫子』の研究第13回。
ついに最後、第十三篇用間篇 について書いていきます。
戦いにおいて最も必要な情報収集。
その要である間諜(スパイ)についての篇です。

孫武

まずは書き下し文、
次いで解説を加えた現代語訳を紹介します。


孫武

用間篇 書き下し文

孫子曰わく、

凡そ師を興こすこと十万、師を出だすこと千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費し、内外騒動して事を操(と)るを得ざる者、七十万家。
相、守ること数年にして、以て一日の勝を争う。

而るに爵禄百金を愛んで敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。
人の将に非ざるなり。主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。
故に明主賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出ずる所以の者は、先知なり。

先知なる者は鬼神に取るべからず。
事に象るべからず。度に験すべからず。
必らず人に取りて敵の情を知る者なり。


故に間を用うるに五あり。
因間あり。内間あり。反間あり。死間あり。生間あり。
五間倶に起こって其の道を知ること莫し、是れを神紀と謂う。
人君の宝なり。

因間なる者は其の郷人に因りてこれを用うるなり。
内間なる者は其の官人に因りてこれを用うるなり。
反間なる者は其の敵間に因りてこれを用うるなり。
死間なる者は誑(きょう)事を外に為し、吾が間をしてこれを知って敵に伝えしむるなり。
生間なる者は反(かえ)り報ずるなり。


故に三軍の親は間より親しきは莫く、賞は間より厚きは莫く、事は間より密なるは莫し。
聖智に非ざれば間を用うること能わず、仁義に非ざれば間を使うこと能わず、微妙に非ざれば間の実を得ること能わず。
微なるかな微なるかな、間を用いざる所なし。
間事未だ発せざるに而も先ず聞こゆれば、其の間者と告ぐる所の者と、皆な死す。 


凡そ軍の撃たんと欲する所、城の攻めんと欲する所、人の殺さんと欲する所は、必らず先ず其の守将・左右・謁者・門者・舎人の姓名を知り、吾が間をして必らず索(もと)めてこれを知らしむ。

敵間の来たって我れを間する者、因りてこれを利し、導きてこれを舎せしむ。
故に反間得て用うべきなり。是れに因りてこれを知る。
故に郷間・内間 得て使うべきなり。是れに因りてこれを知る。
故に死間 誑事を為して敵に告げしむべし。是れに因りてこれを知る。
故に生間 期の如くならしべし。

五間の事は主必らずこれを知る。
これを知るは必ず反間に在り。
故に反間は厚くせざるべからざるなり。 


昔、殷の起こるや、伊摯(いし)夏に在り。
周の興こるや、呂牙 殷に在り。
故に惟だ明主賢将のみ能く上智を以て間者と為して必らず大功を成す。
此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。


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孫武

用間篇 現代語訳

十万規模の軍を動員し、千里の遠くまで出征するとなれば、民衆や政府の出費は、日ごとに千金をも消費するほどになり、国の内外ともに騒然となって物資の輸送に疲れ果て、生業もままならない者が七十万戸にも達する。 
こうした苦しい状態で、国と国が数年にも対峙して持久戦を続けたのちに、たった一日で勝敗が決するのです。

それにもかかわらず、間諜に爵位や俸禄、賞金を与えることを惜しんで、敵情を探ることを怠るのは不仁(民に対して思いやりがないこと)の最たるものです。
人の上に立つ将軍の資格がなければ君主の補佐としての資格もない。
ましてや勝利の主であるとは言えません。
聡明な君主、賢い将軍が、軍を動かして敵に勝ち抜群の成功を収めるのは、あらかじめ敵情を察知しているからなのです。

あらかじめ敵情を察知するというのは、
神に祈って得られるものではなく、
天界の事象になぞらえて実現できるものでもなく、
自然の法則や天体の運行から試し計る事でもありません。
必ず、人の働きによって敵の情報を知ることができるのです。

そこで、間諜の使用法には五種類があって、
 因間があり、内間があり、反間があり、死間があり、生間がある。
これら五種の間諜が平行して諜報活動を行ないながら、
互いにそれぞれの間諜が自分の任務を知らずにいるのが、神妙な統括法(神紀)という。
人民を治める君主が宝とすべきことなのです。 

因間というのは、敵国の民間人を利用して諜報活動をさせるものです。
内間というのは、敵国の官吏を買収して内通させるものです。
反間というのは、敵国の間諜を寝返らせて使うものです。
死間というのは、虚偽の軍事計画を配下の間諜によって敵の間諜に伝えることで敵をあざむくもの。
生間というのは、敵国に侵入しては生還して情報をもたらすものです。

そこで、全軍の中でも、 
間諜ほど君主や将軍との親密な者はおらず、恩賞も間諜より厚い者はいない。
任務も間諜が扱うものが最も機密を要します。
君主や将軍が優れた知恵者でなければ、軍事に間諜を役立てることはできません。
仁義を持たなければ間諜を期待どおり使いこなすことはできません。
微妙なことまで察知する洞察力を備えていなければ、間諜のもたらす情報の中の真実を選び出すことができないのです。 
何と微妙で奥深いことでしょう。
軍事において間諜を利用しない分野などないのです。 

間諜が進めていた諜報・謀略活動が、まだ外部に発覚するはずのない段階で他から耳に入った場合には、その任務を担当している間諜と、情報を入手して通報してきた者とをともに始末します。 

攻撃したい敵の軍、攻めたいと思う敵の城、殺したいと思う敵人物については、必ずその守備にあたる将軍、その左右の近臣、謁見を取り次ぐ者、門番、従者の姓名を知り、味方の間諜に必ずそれらの人物のことをさらに調べさせます。 

こちらにやってきてスパイをしている敵の間諜は必ず見つけ出し、利益を与えて巧みに誘いこちらに寝返らせます。
こうして反間として用いることによって敵情を知ることができ、
敵情を知れるので因間や内間として使うこともできます。
敵情を知れるので死間として使って偽の情報を敵に流したり、
敵情を知れるので送り込んでいた生間を計画通りに帰って来させることもできるのです。

五種類の間諜がもたらす情報は、君主が必ず知らなければならないことですが、
こうした情報を知るためには反間が最も重要なのです。
だから、反間は必ず厚遇しなければなりません。

昔、殷王朝が興った際、建国の功臣である伊摯(いし)が間諜として敵の夏の国に入り込んでいました。
また、周王朝がが興った際は、呂牙(りょが)が間諜として敵の殷の国に入り込んでいたのです。
聡明な君主やすぐれた将軍は優れた知恵者を間諜として起用することで、必ず偉大な功業を成し遂げることができます。
この間諜こそ戦争の要であり、全軍が頼って行動するものなのです。

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孫武

用間篇 解説とまとめ

まとめますと、
戦争は莫大な人員とコストを動員して国力を大きく消耗するにも関わらず、勝負は一瞬。
損失をペイするためには絶対に勝たなければならず、
勝つためには何よりも敵情を察知することが重要。

敵情を知るにはスパイの活用が不可欠ですが、
そこへの経費をケチって疎かにするのは愚の骨頂。
諜報活動を疎かにして敵情を探らないヤツはダメだとボロクソに言っています。

間諜(スパイ)には五種類あり、これらを使いこなすことで、敵を知り、
また嘘の情報で敵を撹乱して有利なポジションに立ったり勝てるような準備を万全にします。
そんな諜報や工作を行う間諜こそ、君主な将軍は優遇しなければなりません。

親密な関係性を持って信頼関係を築くことで期待通りの活躍をさせるわけですが、
間諜からもたらされた多くの情報から真実を見抜く洞察力を持っていることもリーダーに必要なことです。

情報は命なので、もし進めている最中の諜報・謀略活動が、第三者に漏れるようなことがあってはいけません。
もし、情報を知った部下が良かれと思って通報してきたようなことがあれば、
担当の間諜のみならず、通報してくれた者も亡き者にして機密を保持します。
良かれと思って通報してきた者も処分する。というシビアさですが、機密情報とはそれくらい大切で守らなければならないものなのです。

間諜が重要なことは、戦っているわけなので敵も承知。
当然、相手も間諜を放ってくるので、そいつを上手く取り込んで「反間」つまり二重スパイとして利用します。
反間により敵情がわかることにより、こちらの諜報活動や工作は加速します。
だから、敵のスパイは何より厚遇しろという話です。
筋を通して忠義を尽くす。というサムライな価値観からすると釈然としないところもありますが、
戦いとは合理性なのです。

これまでも、敵情を知って有利に立てという教えが繰り返し登場しましたが、
その方法は人間を使ったリサーチや根回しが重要です。
孫子の時代は言ってみれば占いによって敵や勝負の行方を探るといったことも当たり前という風潮。そんな中、それを否定して人間による間諜こそ戦いの要と言う現実的な考えですね。

『孫子』十三篇

参考文献
・孫子 ー「兵法の真髄」を読む(中公新書) 渡邉義浩 著

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