兵家 孫子の兵法

40 孫子 十三篇 研究 8 -九変編 こんな時・こんな場所ではこうするのだ!-

2024年3月29日

兵法書『孫子』の研究第8回。
第八篇九変篇 について。
そもそも、九変とはなんぞや。というお話ですが、
どういうことかも書いて行きます。
篇としては短めなのですが、結構大事な心構えも述べられていますよ。

孫武

まずは書き下し文、
次いで解説を加えた現代語訳を紹介します。


孫武

九変篇 書き下し文

孫子曰わく、

凡そ用兵の法は、
将、命を君に受け、軍を合し衆を聚め、

圮地(ひち)には舍ること無く、
衢地(くち)には交わり合し、
絶地(ぜっち)には留まること無く、
圍地(囲地 いち)には則ち謀り、
死地(しち)には則ち戦う。
塗(みち)に由らざる所あり。
軍に撃たざる所あり。
城に攻めざる所あり。
地に争わざる所あり。
君命に受けざる所あり。

故に将、九変の利に通ずれば兵を用うることを知る。
将、九変の利に通ぜざれば、
地形を知ると雖も、地の利を得ること能わず。
兵を治めて九変の術を知らざれば、
五利を知ると雖も、人の用を得ること能わず。

是の故に、智者の慮は必らず利害に雑(まじ)う。
利に雑りて而(すなわ)ち務め信(の)ぶなる可きなり。
害に雑りて而ち患(うれ)い解くべきなり。
是の故に、諸侯を屈する者は害を以てし、
諸侯を役(えき)する者は業を以てし、
諸侯を趨(はし)らす者は利を以てす。

故に用兵の法は、其の来たらざらるを恃(たの)むこと無く、
吾の以て待つ有ることを恃むなり。
其の攻めざるを恃むこと無く、
吾が攻む可からざる所あるを恃むなり。

故に将に五危あり。
必死は殺さる可く、
必生は虜とす可く、
忿速(ふんそく)は侮る可く、
廉白は辱しむ可く、
愛民は煩らす可し。

凡そ此の五つの者は将の過ちなり、用兵の災いなり。
軍を覆し将を殺すは必らず五危を以てす。
察せざるべからざるなり。

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孫武

九変篇 現代語訳

およそ兵を用いる方法は、
将が命令を君主から受け、兵を集めて軍を編成して進撃するにあたり、

圮地(ひち)では宿ることなく、
衢地(くち)では諸侯と盟約し、
絶地(ぜっち)では留まることなく、
囲地(いち)であれば謀略を発し、
死地(しち)であれば死戦する。
道には経由しないところがあり、
軍には攻撃しないところがあり、
城には攻撃しないところがあり、
地には争奪しないところがあり、
君命には従ってはいけないところもあります。

そんなわけで、九変(九種の応変の対処法)が持つ利益をよく理解する将軍こそ、
軍隊の運用法を真にわきまえているのです。

将で九変の利に通じていない者は、
たとえ地形を知っていても、地の利を活かすことができない。
軍を統治しようとも、九変の術を知らなければ、
五利を知っていても、人の用〔兵の働き)を得ることができず、
兵士たちに十分な働きをさせることができないのです。

そのため智者の思慮は、必ず利益と損失の両面を取り混ぜて洞察する。
利益のある事柄には損失面も合わせて考えるから、
事業を大きく成長させることができ、
損失については利益面も合わせ考えるから、
不安なことも解消することができます。
そうしたわけで、諸侯を屈服させるにはその損失を強調し、
諸侯を使役するには魅力的な事業に乗りださせ、
諸侯を奔走させるには利益を強調するのです。

そのため戦いの原則としては、
敵が来ないことをあてにするのではなく、
いつ敵が来ても迎え撃つ用意があることをあてにするのです。
敵が攻めてこないことをあてにするのではなく、
攻めて来られない状況があることをあてにして、敵が攻撃できない状態にするのです。


このため将軍には五つの危険がつきまといます。

決死の勇気だけで思慮に欠ける者は、殺される。
生き延びることしか頭になく勇気に欠ける者は、捕虜にされる。
短気で怒りっぽい者は、侮辱されると怒って計略に引っかかる。
清廉潔白で名誉を重んじる者は、侮辱されると平静を失い罠に陥る。
兵士をいたわる人情の深い者は、兵士の世話に苦労が絶えない

これらの五つは、将が気づかずに陥りやすい過ちであり、
兵を用いる上で災いとなるものです。
軍を全滅させ将を死に追いやるのは、必ずこの五危のどれかにより、
くれぐれも注意しないといけません。

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孫武

九変篇 解説とまとめ

まとめると、
気をつけるべき土地とその対応法を以下の通り5つ挙げています。
5つの土地は聞き馴染みのない言葉なので、具体的にどんな土地なのかと対応方法も解説します。

圮地:湿地帯など足場が悪く行軍するのに困難な土地
→行軍が渋滞し攻撃を受けると対応しにくい=宿営してはいけない。

衢地:四方に通じ他国と国境が接する土地
→地の利を活かして隣接する諸国と結んで味方にし、敵を孤立させる=諸侯と親交を結ぶ。

絶地:自国から遠く離れた土地
→本国からの補給が困難なため消耗を避けるために短期決戦する。=長く留まらない。

囲地:三方を山に囲まれ、前方への一方通行の土地
→前方を守り、後方への脱出の謀略をめぐらせる。=謀略を発する。

死地:背後やサイドは険しく、前方には敵でピンチの土地
→必死でなんとかする。=死戦する。

また、道には通ってはいけないルートがあり、
敵には攻撃してはいけない敵、城には攻めてはいけない城があり、
土地にも手を出してはいけない土地がある
と言っています。
通ることで消耗したり、攻撃を受けるとピンチになってしまうルートがあったり、
兵力上はいけそうでも迂闊に手を出すとダメージを受けたり、
取っても割に合わないといった敵や城、土地があるのでむやみに欲しがらず、
よく考えて必要か、有用かを見極めた上で取りに行きなさい。ということです。

また、君命には従ってはいけないところもある。
といっていますが、これは以前紹介した「謀攻篇」でもありましたね。
現場の状況がわかっていない君主からの命令よりも、
現場のトップの判断を優先すべきです。

上記の5つの土地での対応法や、
通ってはいけないルート、手を出してはいけない敵・城・土地、
以上9つの臨機応変の対応法を理解している者が、
軍を動かすということを知っていると言えるとしており、
これがわからなければ、自軍のポテンシャルを発揮することができないのです。
合わせて、物事を考えるときには、
利益と損失を両面から考えろと言っています。
両面から考えるからリスクを見ることができ、不安も解消されます。

また、戦いのみならずお仕事などでも心がけるべき、
大事な言葉も出て来ました。

其の来たらざらるを恃(たの)むこと無く、
吾の以て待つ有ることを恃むなり。
其の攻めざるを恃むこと無く、
吾が攻む可からざる所あるを恃むなり。


敵が来ないことをあてにするのではなく、
いつ敵が来ても迎え撃つ用意を整えて待ち受ける。
敵が攻めてこないことをあてにするのではなく、
敵が攻撃できない状態にする。

吾が攻む可からざる所あるを恃むなり。

これ、座右の銘にしたいです。

最後に、将の五危 です。
この5つは一概に欠点とはいえず、
中にはリーダーとして大切なところや美徳、
「人間だもの。」とも言えるところもありますが、
過ぎたるは猶及ばざるが如し、
何事もバランスよく、冷静・客観的な視点が必要というわけですね。

『孫子』十三篇

参考文献
・孫子 ー「兵法の真髄」を読む(中公新書) 渡邉義浩 著

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