兵家 孫子の兵法

33 孫子 十三篇 研究 1 -計編 勝算はどちらに?-

2024年3月13日

兵法書『孫子』の研究第1回。
今回は第1篇の計篇 について書いていきます。
この篇は戦争に対する基本的な考えを述べた篇。
戦いを始める前の準備の大切さも説かれています。

まずは書き下し文、
次いで解説を加えた現代語訳を紹介します。

孫武
孫武

形篇 書き下し文

孫子曰く、兵とは国の大事なり。

死生の地、存亡の道、
察せざるべからざるなり。

故にこれを経(はか)るに五事を以ってし、
これを校(くら)ぶるに計を以ってして、
その状を索(もと)む。

一に曰く
二に曰く
三に曰く
四に曰く
五に曰くなり。

道とは、
民をして上と意を同うし、
これと死すべく、これと生くべくして、
危(うたが)わざらしむるなり。

天とは、
陰陽・寒暑・時制・順逆・兵勝なり

地とは、
高下・広狭・遠近・険易・死生なり。

将とは、
智・信・仁・勇・厳なり。

法とは、
曲制・官道・主用なり。

凡そ此の五者は、
将は聞かざることなきも、
これを知るものは勝ち、
知らざる者は勝たず。

故にこれを校ぶるにするに
計を以てして、その情を索む。

曰く、

主 孰(いず)れか賢なる、

将 孰れか能なる、

天地 孰れか得たる、

法令 孰れか行わる、

兵衆 孰れか強き、

士卒 孰れか練(なら)いたる、

賞罰 孰れか明らかなると。

吾、これを以て勝負を知る。
将 吾が計を聴くときは、これを用うれば必ず勝つ、これを留めん。
吾が計を聴かざるときは、これを用うれば必ず敗る、これを去らん。

計、利として以て聴かるれば、
乃(すなわ)ちこれが勢為して、
以て其の外を佐(たす)く。
勢とは利に因りて権を制するなり。

兵とは詭道なり。

故に、能なるもこれに不能を示し、
用なるもこれに不用を示し、
近くともこれに遠きを示し、
遠くともこれに近きを示し、
利にしてこれを誘い、
乱にしてこれを取り、
実にしてこれに備え、
強にしてこれを避け、
怒にしてこれを撓(みだ)し、
卑にしてこれを驕(おご)らせ、
佚(いつ)にしてこれを労し、
親にしてこれを離す。

其の無備を攻め、其の不意に出でず。
此れ兵家の勝にして、先きには伝うべからざるなり。

夫(そ)れ未だ戦わずして
廟算(びょうさん)して勝つ者は、算を得ること多ければなり。
未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。
算多きは勝ち、算少なきは勝たず。
而(しか)るを況(いわん)や
算なきに於いてをや。

吾れ此れを以てこれを観るに、
勝負見(あら)わる。

===



孫武

形篇 現代語訳

孫子は言いました。

戦とは、国にとって命運を決めるくらい一大事。
なので、軍の生死を分ける戦場だったり
国家の存亡を分けるような場面では
くれぐれもしっかり考えて動かないといけないということです。

死生を分ける地や
存亡の道を考えるためには
5つの基本事項(五事)を用います。

そして、
「どこが死生の地でどれが存亡の道か」
を明らかにするために、
比較・検討する基準(七計)を使って
こちらと相手の優劣を探る必要があります。

「五事」とは、
道・天・地・将・法
の5つのポイントになります。

道とは、
民衆の意志を君主に同化させるために正しい政治を行うこと。
普段から正しいマネジメントで信頼関係ができているからこそ、
戦争になっても民衆に
君主と死生を共にさせることができ、
民衆は政府の命令に疑いを持たなくなります。

メンバーとリーダーが同じ方向を向き、
疑いを持たずに同じ目的を達成するために努力できるのです。

天とは、
陰陽、つまり明るさ暗さ、
気温の寒暖、四季の推移の定めのこと。

地とは、
距離の遠近、地形の険しさと平坦さ、地形が有利か不利か。
戦場に関する地理・立地条件についてです。

天と地で言う、環境や外的要因については
努力ではどうにもならないので、
有利であるのか、不利であるのかを見極めます。

将とは、
軍の統括を任せるリーダーの能力や資質。
智力、誠実さ、思いやり、勇気、厳格さといった事です。

法とは、
軍隊の編成、各人の職権、
将軍の指揮権についてのルールや賞罰。
軍を運営するにあたっての各種の規則についてです。

およそこれらの五つの事項は、
将軍であれば誰でも聞き知っておくべきことではありますが、
その重要性をよく知るものは勝ち、
本質を知らない者は敗れます。


そこで彼我の生死を分ける地や
存亡を分ける道をはっきりさせるため、
優劣を比較する基準となる7つの指標、
つまり七計を用いて、
実際に自らと相手の優劣を探ります。


七計とは、自国と敵国を比べて、

1、君主はどちらが道徳が有り、
民心を掌握して君主と民の心が一つになれているか。
2、将軍の能力はどちらが優れているか。
3、天の利、地の利はどちらにあるか。
4、軍のルールはどちらが公正に運用されているか。
5、兵力はどちらが強大か。
6、兵士はどちらがより訓練されているか。
7、賞罰はどちらが公正に実行されているか。

私はこうした比較によって、戦う前から勝敗の行方を知るのです。
将軍が私の計略を聞き入れるならば、必ず勝つであろうからその地に留まらせ、
将軍が私の計略を聞き入れないならば必ず負けるであろうからその地を去ることになる。
私の立てる計略の有利さを理解して聴いてくれるならば、
「勢」が生じて戦いを助けてくれるのです。
勢とは、有利な状況を見抜き臨機応変に対応することです。

まあ、ぶっちゃけたところ、
戦争とは、騙し合いなのです。
だから相手を騙して油断させることが必要。

本当はできることもできないように見せかけるし、
必要であっても必要でないように見せかける。
実際は目的地に近づいているのに遠く離れているかのように見せかけ、
目的地から遠く離れているのに近づいたかのように見せかける。
敵が利益を欲しがっているときは利益をエサに敵を誘い出す。
混乱させて、その隙に奪い取る。
敵の戦力が充実しているときは攻撃に備えて防御を固める。
敵が強大なときは戦いを避け、
敵が怒り狂って怒涛の勢いな時はわざと挑発してかき乱し、衰えるのを待つ。
逆に敵が謙虚なときは低姿勢にでて驕らせて足元をすくう。
敵が休息十分であれば疲労させ、
同盟国との関係や、敵陣営の人間関係が親しい間柄であれば分裂させる。

こうして敵が攻撃に備えていないところを攻撃し、
敵が予想していないところを攻める。
このように、兵家の勝ち方とは臨機応変の対応によるものであるから、
あらかじめどのような方法で勝つかは人に話すことはできないのです。

そもそもまだ戦わないうちから
作戦会議ですでに勝つと確信できるのは、
五事・七計を分析して得られた勝利の条件が相手よりも多いからです。

戦う前から勝つ見込みがないのは、勝算が相手よりも少ないから。
勝算が多ければ勝つし、勝算が少なければ負ける。
ましてや勝算が一つもないのならば、いうまでもない事である。

私はこうした基準によって戦いの行方を観察しているので、
勝敗は目に見えているのです。



孫武

形篇 解説とまとめ

『孫子』第一篇 形篇、
上記のようなことが書かれていました。

ことを起こす際には、
計画を立て、しっかりと分析して行動すること。
勝算をしっかり見極めた上で戦うことが、
大事であると言うことが述べられていましたね。

重要なのが5つの条件「五事」であり、
孫武の時代は古代と時代が違い、
そして戦争についてというところなので、
実際の我々の現代社会とは少し違いますが、
もちろん応用はできます。
あくまで例ですが、具体的には、


当時で言えば王様の思想が民衆に共有出来、
民心を捉えているか。ですが、
現代で言えば企業理念やトップの考えが
メンバーに理解されて共有出来て同じ方向を向けているかというところでしょう。


戦争であれば天候や寒さ・暑さ、四季の推移ですが、
これは時流であったり、トレンドと考えればいいと思います。
会社や自分が打ち出したいものが、
それにちゃんと合ったものであるか。ということです。


戦場に関する地理・立地条件という意味でしたが、
現代で言えば、
自社の商品やブランドのイメージやポジション、
そういった競合との関係性と見れます。
個人のことであってもチーム内の立ち位置や、
ライバルとの優劣などですね。


リーダーの能力や資質です。
個人であれば、自分がどういった能力があるのかを分析するのです。
智力、誠実さ、思いやり、勇気、厳格さといった事は、
そのまま判断基準にしてもいいでしょう。


組織の編成、各人の職権、
企業・グループのルールや賞罰についてですので、
これは大きく変わりません。
チームを運営するにあたって不公平があったりせず、
働きに応じてきちんと評価がされているかが重要です。

そして争う時には上記の五事をふまえて、
七計を持って分析し、
相手との戦力差・勝算の差を調べます。

注意すべきは、あくまで客観的に分析すること。
ラッキーや根性をあてにしてはいけません。

当たり前のことですが、
「勝算が多ければ勝つし、勝算が少なければ負ける。」
戦う前から勝負の行方は予想できるので、
勝ち目がない戦いはする必要がないので避ける方法を考え、
確実に勝てるルートを見出して作戦を立てるのです。

合わせて、「兵は詭道」ということも重要。
正攻法でぶつかるのでは勝っても消耗が激しく、
ダメージにより、勝った後の戦いにも影響します。

相手を出し抜いて有利に立つことで、
敵が攻撃に備えていないところを攻撃し、
敵が予想していないところを攻める。
これまた確実に勝てるルートを見出すことが重要なのです。



以上、『孫子』十三篇、
第一篇 計篇 の紹介でした。
導入ではありますが、早速大事なことを教えてくれています。

こんな感じで次回からも各篇を紹介していきますので、
よろしくお願いします。

『孫子』十三篇

参考文献
・孫子 ー「兵法の真髄」を読む(中公新書) 渡邉義浩 著

孫子ー「兵法の真髄」を読む (中公新書 2728) [ 渡邉義浩 ]

価格:990円
(2024/3/11 16:48時点)
感想(0件)

・老子×孫子「水」のように生きる (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)蜂屋邦夫・湯浅邦弘 著

老子×孫子「水」のように生きる (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著) [ 蜂屋邦夫 ]

価格:990円
(2024/3/11 16:49時点)
感想(2件)

-兵家, 孫子の兵法