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116 気になる日本文学シリーズ 坂口安吾「夜長姫と耳男」⑤

気になる日本文学シリーズ。
「夜長姫と耳男」第五回。

今回でラスト、完結編です。





昭和の文豪・坂口安吾
バラエティ豊かな多くの作品のなかでも傑作といわれる本作。
古代史や飛騨地方への興味・関心、
また、彼の芸術観、恋愛観が色濃く反映された作品とされております。

文学作品となりますので、本来は実際の文章を読んで頂きワールドを感じていただきたいところ。
坂口安吾作品の多くは、「青空文庫」で気軽に読めます。

青空文庫「夜長姫と耳男」


生々しい情景描写や安吾らしい引き込まれる文体、
また「ヒダ」や「タクミ」というように独特なカタカナ使いによる異世界感もあって、幻想的で不思議な魅力を演出しています。

字を読むのが苦手だなー。という方や忙しい方は、
移動中や通勤・通学のお供に YouTubeとかで朗読を聞くのもいいですね。

坂口安吾






はい、では前回のあらすじから。

主人公は飛騨(作中では「ヒダ」)の若き匠(タクミ)である耳男(みみお)
彼の師匠はタクミ達の中でも三名人と呼ばれるレジェンドで、
ある時、夜長の里を治める 夜長の長者 により、一人娘の・夜長姫 の護身仏を彫ってほしいと招かれますが、
高齢を理由に弟子の耳男が代わり、里に向かいます。

里では三名のタクミ達が腕を競うコンペ形式で、勝者の作が採用され美女の奴隷もプレゼント。
ですが、優勝賞品である江奈古(エナコ)とケンカになり耳を切られる耳男。
一連の争いの始末にエナコを死罪にすることになりますが、
それを拒んで助けたら、なぜかヒメに命じられて耳男はもう一つの耳も切られて、耳なし男になるハメに。

波乱の幕開けとなりましたが、あたりのヘビを犠牲にした呪いパワーで、
耳男が作った、何かわからんけどすごく怖い像が優勝。

ヒメの恐ろしさを知った耳男は、命の危険でガクブルでしたが
お風呂に入ってさっぱり。
生き延びるために、ヒメのためにちゃんと仏像作らせてください。とお願いします。

願いは聞き入れられましたが、
和やかな場で語られたエナコの死と、
風呂上がりの耳男が着ている服はエナコが死んだ時の服だよ。というヒメからのサプライズで、場はドン引きに凍りついたのでした。


今回もセリフや表現など、実際の文章を引用しながらなるべく端折らずストーリーを追って行きますね。
チャプター見出しナビゲーターは、ひきつづき夜長の長者の使者 アナマロ です。

アナマロ


アナマロ

ホーソーの襲来。



耳男がちゃんと仏像彫らせてとペコったころ、
山奥にあるこの里にも疫病が流行、作中では「ホーソー」とあるので天然痘ですね。

天然痘といえば、天然痘ウイルスを病原体とする感染症で、疱瘡(ほうそう)、痘瘡(とうそう)とも呼ばれます。
ヒトに対して非常に強い感染力を持ち、全身に膿疱が生じる恐ろしい病。
致死率は平均で約20%から50%と非常に高く、治癒しても瘢痕(あばた)が残ります。
1980年、世界保健機関(WHO)により根絶が宣言され、
人類史上初にして唯一、根絶に成功した感染症ですが、ワクチンが発明されるまではまさに死の病でした。

そんなパンデミックにより、
村では家ごとに疫病除けの護符を貼って白昼もかたく戸を閉し、
日夜神仏に祈っていましたが、日ましに死者は多くなる一方。
なにせワクチンもない時代ですので。
 
長者の家でも邸内の雨戸をおろして日中も息を殺していましたが、
ヒメの部屋だけは、ヒメが雨戸を閉めさず、

「耳男の造ったバケモノの像は、
耳男が無数の蛇を裂き殺して逆吊りにして、

生き血をあびながら咒いをこめて刻んだバケモノだから、
疫病よけのマジナイぐらいにはなるらしいわ。
ほかに取得もなさそうなバケモノだから、門の外へ飾ってごらん」


と、人に命じて厨子ごと像を門前へ据えさせました。


そのころ耳男は、今度こそヒメの持仏の弥勒像に精魂かたむけていました。
ホトケの顔にヒメの笑顔をうつしたいと考え、制作に没頭。

ヒメは邸内の高楼に登って村を眺め、
はずれの森に死者をすてに行くために運ぶ者の姿を見ると満足といった様子。
「今日も死んだ人があるのよ」と邸内の人みんなにもれなく聞かせてまわるのがヒメのたのしみなので、
ニッコニコで耳男の小屋にも、いちいち報せに来るのです。
なお、仏像の出来ぐあいを見て行くようなことはなく一目もくれません。



家中の人々が息を殺している中、
邸内で人間らしくうごいているのは仕事に励む耳男とヒメの二人だけという、かなりシュールな状態。


耳男はヒメの

「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、
蛇の生き血をあびながら咒いをかけて刻んだバケモノだから、
疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。
ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってごらん」


という言葉を人づてに聞き、

「オレが咒いをかけて刻んだことまで知りぬいていて、オレを生かしておくヒメが怖ろしいと思った。
三人のタクミの作からオレの物を選んでおいて、
疫病よけのマジナイにでも使うほかに取得もなさそうだとシャア/\と言うヒメの本当の腹の底が怖ろしかった。」


と思わずすくみ、

「やっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ない」

「オレにヒキデモノを与えた元日には、ヒメの言葉に長者まで蒼ざめてしまった。
ヒメの本当の腹の底は、父の長者にも量りかねるのであろう。
ヒメがそれを行う時まで、ヒメの心は全ての人に解きがたい謎であろう。
いまはオレを殺すことが念頭になくとも、元日にはあったかも知れないし、また明日はあるかも知れない。
ヒメがオレの何かに興味をもったということは、オレがヒメにいつ殺されてもフシギではないということであろう。」


と考えるのでした。



耳男の弥勒像はヒメの無邪気な笑顔に近づいてきましたが、
彼が立ち向かうべきものは像の顔形の造形よりも、ヒメのあどけない笑顔の秘密。

一点の翳りもなく冴えた明るい無邪気な笑顔であり、
血を好む一筋のキザシも示されず、
魔神に通じるいかなる色も、いかなる匂いも示されていない。
ただあどけない童女のものが笑顔の全てで、どこにも秘密のないもの。
それがヒメの笑顔の秘密なのでした。

そして、このあどけない笑顔がいつ自分を殺すかも知れない顔だと考えると、その怖れが仕事の心棒になるのでした。



ホーソー神が通りすぎたとき、村の五分の一が死んでしまいましたが、
長者の邸には多数の人々が住んでいるのに、一人も病人がでず、
耳男が造ったバケモノが一躍村人に信心されます。

「耳男があまたの蛇を生き裂きにして逆吊りにかけ生き血をあびながら咒いをこめて造ったバケモノだから、
その怖ろしさにホーソー神も近づくことができないのだな」


と長者がヒメの言葉をうけうりして吹聴し、
像は山上の長者の邸の門前から運び降ろされて山の下の池のフチの三ツ又のにわか造りのホコラの中に安置されます。


ご利益を目当てに遠い村から拝みにくる人も少なくなく、
耳男は名人ともてはやされますが、
その上の大評判をとったのはヒメで、
長者の一家を護ったのもヒメの力によるものだ。
尊い神がヒメの生き身に宿っておられる。
尊い神の化身である。
という評判がたちまち村々へひろがります。

山上の長者の邸の門前まできて拝んで帰ったり、門前へお供え物を置いて行ったりと
ヒメ大人気。
そんなヒメは言います。

「耳男よ。お前が造ったバケモノはほんとうにホーソー神を睨み返してくれたのよ。
私は毎日楼の上からそれを見ていたわ」


「耳男よ。お前が楼にあがって私と同じ物を見ていても、
お前のバケモノがホーソー神を睨み返してくれるのを見ることができなかったでしょうよ。
お前の小屋が燃えたときから、お前の目は見えなくなってしまったから。
そして、お前がいまお造りのミロクには、お爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないわ」


耳男はヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思い、
また、たしかに人力を超えたヒメかも知れぬと怖ろしく思いつつ、
ヒメから渡されたお供えのカブや菜っ葉を手に立ち尽くすのでした。



アナマロ

パンデミック再び。


ホーソー神が通りすぎて五十日もたたないうちに、
なんと今度はちがった疫病が村を襲いました。
季節は夏、熱い日中であっても、人々は再び雨戸をおろして神仏に祈ってくらします。

しかし、前のパンデミックのあいだは農業ができなかったので食糧難。
お百姓はおののきながら野良作業へ出ますが、
朝は元気で出たのが、日ざかりの畑でキリキリ舞いをしたあげく、しばらく畑を這いまわってことぎれる者も少くない。
という超恐ろしい状況。
キリキリ舞いですよ。キリキリ舞い。
バケモノのホコラを拝みにきてホコラの前で死んでいた者もあり状況悪化してんじゃん。


長者の邸も人々は息をころして暮していましたが、
ヒメだけが雨戸をあけ、時に楼上から山下の村を眺めて、死者を見るたびに邸内の全ての者にきかせて歩いています。
 
小屋へきてヒメがいいます。

「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」

「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」

耳男の返事に取り合わずヒメは静かに命じました。

「耳男よ。裏の山から蛇をとっておいで。大きな袋にいっぱい」

耳男はヒメに命じられては否応もなく黙って意のままに従います。
「その蛇で何をするつもりだろう」という疑いも、ヒメが立去ってからでないと頭に浮かばないほどに。

去年の同じ頃、そのまた前の年の同じ頃にも、耳男はヘビとりマシーンと化していましたが、
また数多のヘビたちが犠牲になるフラグです。

ただし耳男はふと気がつきます。
今までのヘビ取りは、ヒメの笑顔に押されてひるむ心をかきたてようという悪戦苦闘でしたが、
そのころに比べると、いまはヒメの笑顔に押されるということがなく、
押されてはいるかも知れないけど、押し返さねばならないという不安な戦いはないということ。

「ヒメの笑顔が押してくるままの力を、
オレのノミが素直に表すことができればよいという芸本来の三昧境にひたっているだけのことだ。」


ともかく心に安らぎを得て、素直に芸と戦っているから、
去年のオレも今年のオレも変りがないように思っていたが、大そう変っているらしいな、ということをふと考えます。

ということは、
「今年のオレ、去年より全てにおいて立ちまさっているじゃん!」と思い、
大きな袋にいっぱい蛇をつめて戻る耳男。
そのふくらみの大きさにヒメの目は無邪気にかがやき、
楼へ運ばせるとヒメは下を指して云います。

「三ツ又の池のほとりにバケモノのホコラがあるでしょう。
ホコラにすがりついて死んでいる人の姿が見えるでしょう。お婆さんよ。
あそこまで辿りついてちょッと拝んでいたと思うと、にわかに立ち上ってキリキリ舞いをはじめたのよ。
それからヨタヨタ這いまわって、やっとホコラに手をかけたと思うと動かなくなってしまったわ」


さらにヒメは下界の諸方に目を転じて飽かず眺めふけり呟きます。

「野良にでて働く人の姿が多いわ。
ホーソーの時には野良にでている人の姿が見られなかったものでしたのに。
バケモノのホコラへ拝みに来て死ぬ人もあるのに、野良の人々は無事なのね」



小屋にこもって仕事にふけってい邸外と交渉がない耳男は、
疫病の怖ろしい噂や、自分が作ったバケモノ像が魔よけの神様にまつりあげられていること、
自分が名人ともてはやされていることすらも、別天地の出来事のように思っていましたが、
はじめて高楼から村を眺めたとき、ホコラにすがりついて死んでいる人の姿を見ると人里の哀れさが目にしみ、
魔よけの役に立たないことなんて分りきっている像にすがりついて死ぬ人があるとは罪な話であり、
自分がが罪を犯しているような味気ない思いにかられ、
「いッそ焼き払ってしまえばいいのに」と思うのでした。


下界の眺めを堪能したヒメはふりむき、
耳男がしたように血を絞り、裂き殺した蛇を天井に吊るせと命じます。
なお、生き血は飲むそうです。

ヒメの命令には従う以外に手がない耳男は道具を用意し、
袋の蛇を一匹ずつ裂いて生き血をしぼり、順に天井へ吊るします。

耳男はまさかと思いましたが、ヒメはたじろぐ色もなく、ニッコリと無邪気に笑って、生き血を一息にのみほし、イケる口です。
その姿を見てさすがの耳男もあまりの怖ろしさに、蛇をさく馴れた手までが狂いがちです。


ヒメは蛇の生き血をのみ、蛇体を高楼に逆吊りにして、何をするつもりなのでしょうか。
目的の善悪がどうあろうとも、高楼にのぼり、ためらう色もなくニッコリと蛇の生き血を飲みほすヒメはあまり無邪気で、
耳男は怖ろしく思います。
とりあえず、マネはしないようにしてください。

三匹目の生き血まで一息に飲みほしたヒメ、四匹目からは屋根や床上へまきちらし、
耳男が袋の中の蛇をみんな裂いて吊るし終るとヒメは、

「もう一ッぺん山へ行って袋にいっぱい蛇をとってきてよ。
陽のあるうちは、何べんもよ。
この天井にいっぱい吊るすまでは、今日も、明日も、明後日も。早く」


と命令。
もう一度だけ蛇とりに行ってくるとその日はもう日が暮れてヒメの笑顔も無念そう。

吊るされた蛇と、吊るされていない空間とを、充ち足りたように、また無念げに、ヒメの笑顔はしばし高楼の天井を見上げて動かなかった。

そして、

「明日は朝早くから出かけてよ。何べんもね。そして、ドッサリとってちょうだい」

ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下し、

「ほら。お婆さんの死体を片づけに、ホコラの前に人が集っているわ。あんなに、たくさんの人が」

ヒメの笑顔はかがやきを増し、

「ホーソーの時は、いつもせいぜい二三人の人がションボリ死体を運んでいたのに、
今度は人々がまだ生き生きとしているのね。
私の目に見える村の人々がみんなキリキリ舞いをして死んで欲しいわ。
その次には私の目に見えない人たちも。
畑の人も、野の人も、山の人も、森の人も、家の中の人も、みんな死んで欲しいわ」

すきとおるように静かで無邪気な声でヒメが言います。
これには耳男も、この上ない恐ろしさで、
まるで冷水をあびせかけられたように、すくんで動けなくなってしまいました。

ヒメが蛇の生き血をのみ、蛇の死体を高楼に吊るしているのは、
村の人々がみんな死ぬことを祈っているからなのです。

耳男はヒメが憎いとはついぞ思ったことはありませんが、
このヒメが生きているのは怖ろしいということをその時はじめて考えたのでした。


アナマロ

そして終わりへ。


朝からヘビ採ってこいと言われた耳男。
明け方にちゃんと目がさめます。
ヒメのいいつけが身にしみて、ちょうどその時間に目がさめるほど心が縛られています。

夜が明けきらぬ朝から山へ分け入り、ヘビ取りマシーンになる耳男。
少しも早く、少しでも多く、とヒメの期待に添うてやりたい一念が一途に耳男をかりたててやまないのです。


大きな袋を背負って戻るとヒメは高楼で待っており、
それをみんな吊し終ると、ヒメの顔はかがやいて、
まだ時間も早いから、もっかいいってこよか?
今日は何べんも、何べんも、とってきてね。早く。とねだります。

黙ってカラの袋を握ると山へ急ぐ耳男。
今朝からまだ一言もヒメに口をきいていないのは、
ヒメに向って物を言う力がなかったから。
高楼の天井いっぱいに蛇の死体がぶらさがるのは時間の問題ですが、
そのとき、どうなるのだろうと考えると苦しくてたまりません。

しかも、この恐ろしい行動もヒメにとっては序の口であり、
ヒメの生涯に、この先なにを思いつき、なにを行うか、それはとても人間どもの思量しうることではない。

「とてもオレの手に負えるヒメではないし、オレのノミもとうていヒメをつかむことはできないのだ」

と耳男ははシミジミ思い知らずにいられなかったのです。

「なるほど。
まさしくヒメの言われる通り、いま造っているミロクなんぞはただのチッポケな人間だな。
ヒメはこの青空と同じぐらい大きいような気がするな」


と耳男は思いました。
こんな物を見ておいて、この先なにを支えに仕事をつづけて行けるだろうかと嘆かずにいられないのです。



二度目の袋を背負って戻ると、
ヒメの頬も目もかがやきに燃え、耳男にニッコリと笑いかけながら小さく叫びます。

「すばらしい!」

ヒメは指し示して、

「ほら、あすこの野良に一人死んでいるでしょう。
つい今しがたよ。
クワを空高くかざしたと思うと取り落してキリキリ舞いをはじめたのよ。
そしてあの人が動かなくなったと思うと、ほら、あすこの野良にも一人倒れているでしょう。
あの人がキリキリ舞いをはじめたのよ。
そして、今しがたまで這ってうごめいていたのに」


ヒメの言葉に怖れとも悲しみともつかない大きなものがこみあげ、
耳男はどうしてよいのか分らなくなり、
胸にカタマリがつかえて、ただハアハアとあえぎます。

冴えわたる声がよびかけ、ヒメが指し示しました。

「耳男よ。ごらん! あすこに、ほら! 
キリキリ舞いをしはじめた人がいてよ。
ほら、キリキリと舞っていてよ。
お日さまがまぶしいように。

お日さまに酔ったよう」

長者の邸のすぐ下の畑に、一人の農夫が両手をひろげ、
空の下を泳ぐようにユラユラとよろめいていました。
カガシに足が生えて、左右にくの字をふみながらユラユラと小さな円を踏み廻っているよう。
バッタリ倒れて、這いはじめたところで、
耳男は目をとじて退き、

「ヒメが村の人間をみな殺しにしてしまう」

とハッキリ信じました。
高楼の天井いっぱいに蛇の死体を吊し終えた時、この村の最後の一人が息をひきとるに相違ない。

そしてこの一節、

オレが天井を見上げると、風の吹き渡る高楼だから、
何十本もの蛇の死体が調子をそろえてゆるやかにゆれ、
隙間からキレイな青空が見えた。
閉めきったオレの小屋では、こんなことは見かけることができなかったが、
ぶらさがった蛇の死体までがこんなに美しいということは、なんということだろうとオレは思った。
こんなことは人間世界のことではないとオレは思った。

逆吊りにした蛇の死体を斬り落すか、ここから逃げ去るか、
どっちか一ツを選ぶより仕方がないと耳男は思いノミを握りしめます。
そして、いずれを選ぶべきかに尚も迷ったとき、ヒメの声が。

「とうとう動かなくなったわ。
なんて可愛いのでしょうね。
お日さまが、うらやましい。
日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」


それをきいて耳男の心が変わりました。

無心に野良を見つめ、新しいキリキリ舞いを探しているなんとも可憐なヒメ。
そして物語は幕を閉じます。

===

そして、心がきまると、オレはフシギにためらわなかった。
むしろ強い力がオレを押すように思われた。
オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。
オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。

「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。
私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」

ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。
オレはヒメの言う通りだと思った。
オレも挨拶がしたかったし、せめてお詫びの一言も叫んでからヒメを刺すつもりであったが、
やっぱりのぼせて、何も言うことができないうちにヒメを刺してしまったのだ。
今さら何を言えよう。
オレの目に不覚の涙があふれた。

するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。


ヒメの目が笑って、とじた。
オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。

===





はい、以上です。

な?

何度も言うように、
坂口安吾の作品のヒロインはだいたい怖いんですが、
多分いちばんヤバいのが夜長姫です。


でも、
めっちゃ良くない?

全部ネタバレしちゃったわけですが、
ぜひ原文を読んでみてください。

青空文庫「夜長姫と耳男」

日本文学シリーズとして始めたけど、
正直もうこれ超えるのないかな。
また機会があれば。

なお、坂口安吾の作品では、
「夜長姫」や「桜の森の満開の下」「戦争と一人の女」はもちろん好きですが、
あんまり有名じゃないけどすごい好きなのが

「現代忍術伝」

です。
これは虚無的な終わりじゃなくてハッピーエンドなので読みやすいと思います。

そしてネタバレですが、

忍者でてきません。

個人的には大好きです。





なお、このブログは、気になったことを調べ、学んだ内容とイラストを紹介するお絵描きブログです。

ソースは主にWikipediaなどになりますので、学術研究ではなくエンターテイメントとしてお楽しみください。
興味のきっかけや、ふんわりしたイメージ掴みのお手伝いになればうれしいです。


青空文庫「夜長姫と耳男」
夜長姫と耳男-wikipedia
坂口安吾-wikipedia

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