気になる日本文学シリーズ。
「夜長姫と耳男」第二回。
前回に引き続き、本編のストーリーをこねくり回していきます。
※アフィリエイト広告を利用しています。
だってお金がほしいので。
「夜長姫と耳男」 は、昭和の文豪坂口安吾の小説。
作品執筆の背景には、安吾の古代史と飛騨地方への興味・関心が反映されており、
しばしば彼の芸術観、恋愛観が色濃く反映された作品と見なされております。
雑なあらすじとしては、
飛騨の名匠の弟子で、若手実力派職人「耳男」がクライアントの依頼を無視して、渾身の怖いの作ってビビらせたろ。と奮闘しますが、
無邪気な超絶サイコパス女子から返り討ちに遭うお話です。
ヒロインがだいたい怖いことでおなじみの坂口安吾作品の中でも、夜長姫は最強クラスのやべーヤツ。
文学作品となりますので、本来は実際の文章を読んで頂きワールドを感じていただきたいところ。
坂口安吾作品の多くは、「青空文庫」で気軽に読めます。
名作が無料で読めるのでいいですよね。
青空文庫「夜長姫と耳男」
主人公 耳男 の一人称で話が展開していきますが、
生々しい情景描写や安吾らしい引き込まれる文体、
また「ヒダ」や「タクミ」というように独特なカタカナ使いによる異世界感もあって、幻想的で不思議な魅力を演出しています。
字を読むのが苦手だなー。という方や忙しい方は、
移動中や通勤・通学のお供に YouTubeとかで朗読を聞くのもいいですね。
●「夜長姫と耳男」前回のあらすじ
はい、それでは前回のあらすじ。
舞台は木工王国の飛騨(作中では「ヒダ」)。
夜長の里を治める「夜長の長者」はヒダの三名人と称えられる匠(タクミ)達を招きます。
そのうちの一人、ヒダ随一といわれているのが主人公・耳男(みみお)の師匠。
師匠は高齢のため招きを辞退しますが、
自分の下で腕を磨いてきた弟子で若き匠の耳男、20歳。を推薦。
異例の大抜擢で界隈も迎えに来た使者の アナマロ もびっくり、
耳男的にも今まで褒められたことない思っていましたが、
師匠は実は耳男の実力を認めており、三名人の他のメンバーと腕比べができるチャンスに耳男も招集に応じます。
使者アナマロは道々、嫌味を言い、煽り耐性ゼロの耳男もイライラしますが夜長の里に到着。
クライアントである長者に挨拶の場で、コンプレックスの大きな耳をいじられ、
超絶美女で噂の 一人娘、夜長姫 にもデリカシーない感じで煽られて、
怒りと恥ずかしさで汗だくだくの大パニックになった耳男は逃亡。
飛び出したはいいけど戻れなくなって、どうしたんもんかな・・・。というところでした。
今回もセリフや表現など、実際の文章を引用しながらなるべく端折らずストーリーを追って行きますね。
チャプター見出しナビゲーターは、夜長の長者の使者 アナマロ です。
●第二回 本編はじまり
タクミ達、集合。
耳男が早速やらかしてから五・六日後、三名人が一人 青笠(アオガサ)が到着。
青笠はベテランのタクミで、耳男の親方と並び称される男。
親方やアナマロの言葉にも登場したレジェンドの一人です。
また、それから五・六日おくれて、もう一人の名人・古釜、
ではなくて彼の代理として、その息子である 小釜(チイサガマ) が到着。
コガマではなくチイサガマなところがなんか良いですよね。
三名人揃い踏みとはならず、代理の登場に、
唯一ちゃんと来た名人の青笠は、
「馬耳の師匠だけかと思ったら、フル釜もか。
この青ガサに勝てぬと見たのは殊勝なことだが、身代りの二人の小者が気の毒だ」
と毒づきます。
ほら、出てくる人たちみんな性格がアレ。
なお、ヒメが「ほんとに馬みたい!」といじってからというもの、
耳男のあだ名は「ウマミミ」になり、みんながそう呼ぶようになりました。
耳男は青ガサの高慢にムカつきましたが、
「ここを死場所と覚悟をきめて一心不乱に仕事に精をうちこむだけだ。」
と決心して黙っていました。
さてさて、最後にやってきた小釜、
耳男の7つ年上の27歳で、彼もまだ若いですが父に劣らぬ実力者であるとすでに評判。
耳男も、
「オレの場合のように意外な身代りではなかった」
と認めるタクミです。
なお父の、名人・古釜 、病気と称して代わりに小釜を差し向けましたが、実は仮病疑惑があり、
使者のアナマロが迎えに来たのが3人のうち最後だったので、腹を立てて小釜に行かせたらしいとのこと。
そんな小釜、腕に覚えがあることもあってか、
「青ガサの高慢を眉の毛の一筋すらも動かすことなく聞きながした。
そして、青ガサにも、またオレにも、同じように鄭重(ていちょう)に挨拶した。」
とのこと。
耳男も薄気味悪がるほど落ち着きがある小釜ですが、挨拶以外には人に話しかけず、
それに気付いた青ガサ、
「オメエはどういうわけで挨拶の口上だけはヌカリなく述べやがるんだ。
まるでヒタイへとまったハエは手で払うものだときめたようにウルサイぞ。
タクミの手はノミを使うが、一々ハエを追うために肩の骨が延びてきたわけではあるまい。
人の口は必要を弁じるために孔があいているのだが、朝晩の挨拶なんぞは、舌を出しても、屁をたれても間に合うものだ」
と煽ります。
全方向にケンカを売っていくスタイルですが、
ズケズケと物を云う青ガサを、耳男は気に入るのでした。
耳男、しれっと帰ってきてて草。
煽り耐性ゼロの耳男、全方向に絡む青笠、基本見下すスタンスの小釜。
大丈夫かな、この現場。
やっとこさ今回の依頼発表。
三人のタクミが揃ったので、正式に長者の前へ召され、今回の仕事が申し渡されます。
長者は傍らにいるヒメを見やり、
「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んでもらいたいものだ。
持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、ミホトケの御姿と、それをおさめるズシがほしい。
ミホトケはミロクボサツ。
その他は銘々の工夫にまかせるが、ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいたい」
はい、カタカナが炸裂してますが、
夜長姫のための護身仏として弥勒仏と収納する厨子を、彼女が16歳になる3年後のお正月までに作れ。というわけ。
三名のタクミがその仕事を正式に受けて挨拶を終ると、宴会が始まります。
長者とヒメは正面に一段高く、左手には三名のタクミの膳が、右手にも三ツの膳が並べられます。
右手の席は、アナマロとその他、主だった家来が座るんだろうな。と耳男は考えていましたが、
やってきたアナマロは二人の女性を連れてきます。
江奈古(エナコ)登場。
長者はアナマロといっしょに来た女性達を紹介。
「向うの高い山をこえ、その向うのミズウミをこえ、そのまた向うのひろい野をこえると、石と岩だけでできた高い山がある。
その山を泣いてこえると、またひろい野があって、そのまた向うに霧の深い山がある。
またその山を泣いてこえると、ひろいひろい森があって森の中を大きな川が流れている。
その森を三日がかりで泣きながら通りぬけると、何千という、泉が湧き出している里があるのだよ。
その里には一ツの木蔭の一ツの泉ごとに一人の娘がハタを織っているそうな。
その里の一番大きな木の下の一番キレイな泉のそばでハタを織っていたのが一番美しい娘で、ここにいる若い方の人がその娘だよ。
この娘がハタを織るようになるまでは娘のお母さんが織っていたが、それがこッちの年をとった女の人だよ。
その里から虹の橋を渡ってはるばるとヒメの着物を織るためにヒダの奥まで来てくれたのだ。
お母さんを月待(ツキマチ)と云い、娘を江奈古(エナコ)と云う。
ヒメの気に入ったミホトケを造った者には、美しいエナコをホービに進ぜよう」
すごい遠くから連れてこられたようですが、泣きながら超えてこないといけないってどんだけ。
ともあれ、二人は長者が金にあかして買い入れたハタを織る美しい奴隷。
まごうことなく人身売買ですが、
やむにやまれぬ必要のために遠い国から買れた奴隷は大切に扱われ、第一等のお客様と同じようにもてなしを受けるものの、
それも仕事が出来あがるまでの話であり、仕事が終って無用になれば金で買った奴隷だから、人にくれてやることも、ウワバミにくれてやることも主人の勝手。
とのこと。
今回の仏像バトルの優勝者には、若く美しい娘さんの、江奈古 が賞品として贈られるわけです。
耳男は、初日に「馬の顔にそッくり」と云われて山の奥へ飛び出し、日暮れちかくまで滝壺のそばて考えた結果、
「ヒメの気に入らない仏像を、むしろ仏像ではなくて怖ろしい馬の顔の化け物を造るために精魂を傾けてやる」
とななめ上の方向で覚悟をかためており、
ヒメの気に入るような仏像を造る気持がなかったので、
「ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやる」という長者の言葉に耳男は、
大いに驚愕させ、激しい怒りを覚えさせました。
また、
「この女はオレがもらう女ではないと気がついたために、ムラムラと嘲りも湧いた。」
と素直な耳男なのでした。
そして、その雑念を抑えるために耳男がしたことが、
「タクミの心になりきろう作戦」
親方が教えてくれたタクミの心構え、
「珍しいものを見たときは大蛇に足を噛まれても目を放すな」という教えですが、
その用いどころは今だとばかりに、
「この女が、山をこえ、ミズウミをこえ、野をこえ、また山を越えて、野をこえて、また山をこえて、大きな森をこえて、
泉の湧く里から来たハタを織る女だと? それは珍しい動物だ」
と、江奈古の顔に見つめますが、嘲りが宿った耳男の視線に気付いた江奈古の顔色が変わります。
彼女の目に憎しみの火がもえたつのを見て、耳男の心もにわかに憎しみにもえ、
二人は全てを忘れてただ憎しみをこめて睨み合い、一触即発です。
やがてきびしい目を軽くそらしたエナコは企みの深い笑いをうかべ、
「私の生国は人の数より馬の数が多いと云われておりますが、
馬は人を乗せて走るために、また、畑を耕すために使われています。
こちらのお国では馬が着物をきて手にノミを握り、お寺や仏像を造るのに使われていますね」
と煽り、耳男も即座に言い返し、
「オレの国では女が野良を耕すが、お前の国では馬が野良を耕すから、馬の代りに女がハタを織るようだ。
オレの国の馬は手にノミを握って大工はするが、ハタは織らねえな。
せいぜい、ハタを織ってもらおう。
遠路のところ、はなはだ御苦労」
煽り耐性ゼロなので、売られたケンカをいちいち買います。
エナコの目が「はじかれたように開き」、ブチギレモード。
なぜここにいる人たちは全員ケンカ腰のスタイルなのか。
アウトレイジでしょうか。
そして、静かに立ち上ると長者に軽く目礼し、耳男の前へ立ち止って見おろす江名古、
もちろん耳男と睨み合ったままです。
やがて膳の横を半周して背後へまわると耳男の耳をそっとつまみます。
すごんだところで、
「そんなことか、所詮先に目を離した方が負け」
と彼が思った瞬間、耳に焼かれたような一撃!
耳男は自分が前へのめって膳部の中に手を突ッこんでしまったと気がついたのと同時に、人々のざわめきを耳の底に聞きとめたます。
何が起きた?と、耳男がふりむいて見た江名古は、
静かに下方に垂れた右手にサヤを払った懐剣を握り、左手を不器用に宙に浮かして垂らしています。
もはや微塵も殺意を見せていない彼女の指には何かがつままれています。
それが何かに気づいた耳男、首を回して見た左の肩は一面に血で濡れ、
ウスベリの上にも血がしたたっていました。
そして、何か忘れていた昔のことを思いだすように、耳の痛みに気がつきます。
そして江名古は一言、
「これが馬の耳の一ツですよ。他の一ツはあなたの斧でそぎ落して、せいぜい人の耳に似せなさい」
エナコはそぎ落した片耳の上部を耳男の酒杯の中へ落して立去ったのでした。
はい、アウトレイジでした。怖っわ。
そんな感じで「夜長姫と耳男」第二回でした。
ナチュラルに刃物をみんな所持してるうえに、コミュニケーションがケンカ腰な夜長の里。
デンジャラスシティすぎんよ。
今回は登場人物が揃う回でしたが、みんなネーミングがいいんですよね。
安吾は、後世に残る名作を作り上げた飛騨匠(ヒダノタクミ)たちは、
作者としての名を後世に残さず、作家性を持たなかったことで優れた仏像を彫ることができたのだと考えており、
「彼らは自分の仕事に不満か満足のいずれかを味いつつ作り捨てていき、その出来栄えに自ら満足することが生きがいであった。
こういう境地から名工が生れ育った場合、その作品は「一ツのチリすらもとどめない」ものになるでしょう。」
と、語っています。
主人公・耳男の名も、「耳が長いから」そう呼ばれた仇名で、彼もやはりこうした無名の匠の一人であり、
青笠、古釜も同様に名を持たず生活の中からとられた事物が呼び名になっています。
異世界感があって魅力的ですが、こういったタクミのネーミングは、奈良時代末期であれば十分ありえたと論じているそうです。
また、「江奈古」の名前については、胎児を包む膜である胞(えな)が由来であるとか、
飛騨高山に近い大野灘郷の江名子村の名から取られた可能性があるとか言われているそうです。
という感じで次回へ続きます。
引き続きよろしくお願いします。
なお、このブログは、気になったことを調べ、学んだ内容とイラストを紹介するお絵描きブログです。
ソースは主にWikipediaなどになりますので、学術研究ではなくエンターテイメントとしてお楽しみください。
興味のきっかけや、ふんわりしたイメージ掴みのお手伝いになればうれしいです。
青空文庫「夜長姫と耳男」
夜長姫と耳男-wikipedia
坂口安吾-wikipedia
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