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112 気になる日本文学シリーズ 坂口安吾「夜長姫と耳男」①

気になる日本文学シリーズ。
「夜長姫と耳男」第一回。

前回は作者の坂口安吾について紹介しましたが、
今回から本編のストーリーをこねくり回していきますよ。


「夜長姫と耳男」 の雑なあらすじとしては、
飛騨の名匠の弟子で、若手実力派職人「耳男」がクライアントの依頼を無視して、
渾身の怖いの作ってビビらせたろ。と奮闘しますが、無邪気な超絶サイコパス女子から返り討ちに遭うお話です。
ヒロインがだいたい怖いことでおなじみの坂口安吾作品の中でも、夜長姫は最強クラスのやべーヤツです。

文学作品となりますので、本来は実際の文章を読んで頂きワールドを感じていただきたいところ。
坂口安吾作品は多くが、名作が無料で読める「青空文庫」で気軽に読めます。

青空文庫「夜長姫と耳男」

短編ですし、物語なのでハードル低めかと思いますが、
字を読むのが苦手だなー。という方や忙しくて文章を読んでられないよ。という方は、
YouTubeとかで朗読を聞くのもいいですね。
移動中や通勤・通学のお供にもなりますし。



さてさて、では本編を始めてみましょう。

主人公は「オレ」こと20歳の青年耳男(みみお)で、飛騨(ヒダ)の匠として修行中。
この物語は基本的に耳男の一人称で語られる構成になっています。

作品執筆の背景には、
随筆「飛騨・高山の抹殺―安吾の新日本地理・中部の巻―」(『安吾新日本地理』の一篇)などに描かれた、安吾の古代史とこの地方への興味・関心が反映されており、
批評・研究においては、しばしば安吾の芸術観、恋愛観が色濃く反映された作品と見なされているそうです。

坂口安吾



セリフや表現など、実際の文章を引用しながらなるべく端折らずストーリーを追って行きますね。
チャプター見出しナビゲーターは、夜長の長者の使者 アナマロ です。

アナマロ

はじまり

アナマロ

はじまりはじまり。


耳男の師匠(親方)はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであり、
ある時、親方は「夜長(よなが)の里」を治める「夜長の長者」に招かれます。
しかし親方は老いのため死期が近づいており、身代わりに弟子の耳男を推薦。

「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオレの膝元に育ち、
特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。

五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。
青笠(アオガサ)や古釜(フルカマ)にくらべると巧者ではないかも知れぬが、力のこもった仕事をしますよ。

宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、
仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝(いぶ)かしく思われるほど深いイノチを現します。

オレが病気のために余儀なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」


と、耳男の実力を認めて推薦するわけですが、
「親方にほめられたことは一度もなかった。」という耳男はこの言葉に驚愕。
呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった。とのことでした。

耳男

なお、この作品は上記の親方のセリフからも見れるように、カタカナ使いが特徴的。
「ヒダ」や「タクミ」、「イノチ」というように独特な表現が不思議な魅力と異世界感を演出しています。


耳男の抜擢は一門ではかなり衝撃的なできごとだったようで、
耳男よりもキャリアが長い兄弟子たちは、

「親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだ」

と云いふらし、
夜長の長者の使者 アナマロ も、

「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」

と煽ります。
アナマロの仕事は名人を連れてくることなので、よくわからない小僧を連れて帰るわけにはいかないわけなのですが、いちいち嫌なことを言ってくるのがアナマロのわるいところ。


耳男は耳男で、ケンカっ早いタイプで煽り耐性がない怒りんぼなので、
アナマロの言葉に、ムラムラと腹が立ち、その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげ ます。

「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。
はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だという寺は天下に一ツもない筈だ」


と耳男はのたまい、
それに対してアナマロも

「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。
お前が腕くらべをするのは、お前の師と並んでヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」


と苦笑して言います。


はい、親方のセリフでも出ましたが、ヒダには、
耳男の師匠、青笠(アオガサ)、古釜(フルカマ)という3人の名人がいるわけですね。
その3人が夜長の長者のもとに集い、それぞれ技術を尽くして腕比べをするようです。
耳男、荷が重いぞ。大丈夫か。


耳男は、

「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。
オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだけだ」


と大見得を切り、アナマロも
「うーわ、この子かわいそう。」
とやれやれながら、親方の代わりに長者の元へ連れて行くのでした。



アナマロ

いざ、夜長の里へ。


長者の屋敷への道すがら、アナマロいわく、

「キサマは仕合せ者だな。
キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、日本中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。
せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。
どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ」


と、
この人は、いちいち気に障ることをいいますが、
夜長の長者のところには、日本中の男たちが恋い焦がれる 夜長姫 というお姫様がいるようです。
名人の腕に対して小僧のキャリアでは他の名人に敵わないから、せいぜいうまいことやっていい思い出でも作っとけと、アナマロは言っています。


耳男は上記の通り煽り耐性がないので
いちいちイラつき何度も「帰ったろかな。」と思いますが、
厳しい修行を重ねてきたいっぱしの職人としては、名人と技を競うことは名誉ですし、
そんなチャンスもなかなかないぞ。と思い、
また何より、「彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外」。

一心不乱にイノチを打ち込んだ仕事をやり遂げれば、
たとえお眼鏡に適わなくとも、刻んだ仏像を道の祠に安置し、その下で土に埋もれて死ぬだけだ。

と、生きて帰らぬような悲痛な覚悟を胸にかためます。
正直、自信はないけども。



長者の邸へ着き、
アナマロにみちびかれて耳男は長者に会って挨拶。
まるまるとふとり、福の神のような長者のかたわらには 夜長姫もいます。

長者の頭にシラガが生えたころにようやく生れた一粒種の夜長ヒメ、

一夜ごとに二握りの黄金を百夜にかけてしぼらせ、したたる露をあつめて産湯をつかわせたと云われ、
その露がしみたために、ヒメの身体は生れながらに光りかがやき、黄金の香りがすると云われていた。


とのこと。

噂のヒメを目の前にした耳男、

「珍しい人や物に出会ったときは目を放すな。
オレの師匠がそう云っていた。そして、師匠はそのまた師匠にそう云われ、そのまた師匠のそのまた師匠のまたまた昔の大昔の大親の師匠の代から順くりにそう云われてきたのだぞ。
大蛇に足をかまれても、目を放すな」


という親方の教えに忠実に従って夜長姫を見つめます。

このときヒメ、13歳。
まだあどけない少女で
「威厳はあったが、怖ろしくはなかった」
とのこと。
まあ、このときまでなんですけど・・・

夜長姫


さて、アナマロは、

「これが耳男でございます。若いながらも師の骨法をすべて会得し、さらに独自の工夫も編みだしたほどの師匠まさりで、青ガサやフル釜と技を競ってオクレをとるとは思われぬと師が口をきわめてほめたたえたほどのタクミであります」

と耳男を長者に紹介。

夜長の長者


耳男的には、
「あれ?アナマロ、意外といい感じに言うてくれるやん?」
と拍子抜けしますが、
長者はうなずいて耳男の耳を一心に見つめ、

「なるほど、大きな耳だ」
「大耳は下へ垂れがちなものだが、この耳は上へ立ち、頭よりも高くのびている。

兎の耳のようだ。
しかし、顔相は、馬だな」

と一言。
率直に言ってひどいディスりですが、
まあ「耳男」っていうくらいなんでね。

しかし、これが良くなかった。
実は耳男、
特徴である大きな耳をいじられるとブチギレます。

「オレは人々に耳のことを言われた時ほど逆上し、混乱することはない。
いかな勇気も決心も、この混乱をふせぐことができないのだ。
すべての血が上体にあがり、たちまち汗がしたたった。
それはいつものことではあるが、この日の汗はたぐいのないものだった。
ヒタイも、耳のまわりも、クビ筋も、一時に滝のように汗があふれて流れた。」


とのことで、ぐぬぬぬ となったところに、
さらにとどめの一撃、

「本当に馬にそッくりだわ。
黒い顔が赤くなって、馬の色にそッくり」

と、ヒメがデリカシーのかけらもない感じのことを叫び、
侍女たちも笑い、
耳男は怒りと恥ずかしさと混乱で汗だくだくの大パニック。
初対面の美女にそんないじられ方したら、私なら泣いちゃいます。
ともあれ、ここまで出てきた人、全員性格に難があります。


さて、そんな無慈悲な言葉の暴力で、
湯気が溢れ立つ熱湯の釜 となった耳男は、突然ふりむいて走りだし、
部屋の前を過ぎ、門の外まで走り、ちょっと歩いてまた走り、居たたまれず、山にわけ入り滝の下。
お昼がすぎて腹もへりますが、日が暮れかかるまでは長者の邸へ戻る力が起らない。

まあそやろな。
そんな感じで耳男の初日でした。
耳男かわいそす。



はい、そんなわけで初日からやらかして、
ハードルを上げまくる羽目になった耳男。どうやって収拾をつけるつもりなのか。

この作品のカタカナの使い方、個人的にしびれます。

という感じで次回へ続きますよ。
引き続きよろしくお願いします。


なお、このブログは、気になったことを調べ、学んだ内容とイラストを紹介するお絵描きブログです。
ソースは主にWikipediaなどになりますので、学術研究ではなくエンターテイメントとしてお楽しみください。
興味のきっかけや、ふんわりしたイメージ掴みのお手伝いになればうれしいです。


青空文庫「夜長姫と耳男」
夜長姫と耳男-wikipedia
坂口安吾-wikipedia

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